リカちゃんとワタシ(2)

サトコの家は裕福だった。


兄が一人いた。兄は国立大学の医学部を卒業して医者になった。


サトコは大学に行かなかった。高校を卒業した後、家を飛び出して、恋人のサトシと同棲を始めた。


『家は窮屈だし、退屈だった。ワタシの居場所は無いと思った』


リカはサトシが働く工場で事務員をしていた。


ある日サトシがリカを家に連れてきた。


酒を酌み交わしながら、三人でタモリ倶楽部見た。ゲストはおぎやはぎだった。サトコは矢作が好きで、リカは小木が好きと言った。


『ワタシ、リカちゃん。女子旅で冥界まで来ているの』


サトコはリカの首に手を入れて、いっこく堂のものまねをした。


『リカ』


『うん』


『お腹すいたね』


『うん』


バーガーキングはないかな』


『わからない』


二人は何も無いあぜ道を歩き続けた。


『サトコ』


『何』


『前』


大量のねずみにかじられて、蘇生途中のイムホテップのように筋肉が露出したサトコの祖父が立っていた。


『サトコ。おじいちゃんの話を聞いてくれ。お前はまだ死んではいかん。お前は若い。早く引き返しなさい』


『いや。帰らない』


『帰りなさい』


『いや』


『言うことを聞きなさい』


サトコの祖父はゾンビ映画のゾンビのように腕を前に突き出して、サトコに抱きつこうとした。


サトコはリカに向かって、親指で首を切る合図をした。


リカは手のひらを重ねて前に突き出し、光をまとって回転しながら突進した。


『サイコクラッシャー』


『ぐふっ』


サトコの祖父は道に倒れた。


『リカ、行こう』


サトコとリカを手をとりあって、歩き始めた。


『サ、サトコ・・・。待ってくれ。お、お前の本当の・・・父親を見つけた』


サトコとリカは足を止めた。


『まだ生きておる。お前が言っていた通りだ』


サトコの祖父は西武ライオンズの帽子を脱ぎ、手でぎゅっと握り締めた。


『サトコ、この世に戻ってくれ。お前はわしの生きがいなんだ』


『おじいちゃん。もう死んでるから』


サトコとリカはまた歩き始めた。


『サトコーーーっっ!!』


空は信号機のような緑色だった。パンパースのCMに出てくる赤ちゃんのような天使が、槍を振り回し、冥界をさまよう人間を突き刺しては、天国に連行していた。


『リカ』


『うん』


『リカはサトシ君のこと好き?』


『好きじゃない』


『なんで』


『ワタシはサトコのことが好きだから』


冥界は昨日も、今日も、きっと明日も晴れだった。


二人は手をつないで、どこまでも歩いていった。