ことばのセンス

工場の生産効率化・合理化を進める合言葉で『ムダ・ムラ・ムリ』というのがある。それぞれ
・ムダ: 不必要で勝ちを生まない活用
・ムラ: 攪乱要因となる変動
・ムリ: ムリな計画、作業標準
という意味で、トヨタ生産方式はこれらの3つの『ム』を減らし現場改善を進めましょうと教えている。工場だけでなく、バックオフィスの方針として掲げている会社もある。


この3つの『ム』のを減らす思想そのものには疑義は無い。なるほど、現場改善のための一つの考え方だなと、納得も得心もする。が、問題は3つの『ム』の並び順である。なぜ『ムダ・ムラ・ムリ』なのか。なぜ『ムダ・ムリ・ムラ』ではないのか。


コンサルタントの面倒くさい習性として、複数のポイントは優先度の高いものから順に並べる。それぞれのポイントの重要度、影響度、金額の大きさなどで優先度を判断し、順番を決める。モノの並べ方に意味を持たせる。


『ムダ・ムラ・ムリ』をgoogleで検索すると、『ムリ・ムダ・ムラ』という並び順で辞書の記事がヒットする。そこには以下のように書いてある。

ムリとは負荷が能力を上回っている状況、ムダとは逆に負荷が能力を下回っている状況、ムラはムリとムダの両方が混在して時間によって表れる状況を指す

なるほど、前述とは少し違う説明だが、これならわかる。負荷能力より上(ムリ)か下か(ムダ)またはそれらが混在してしまっているか(ムラ)、というストーリーがある。がしかし、他にヒットしたページではやはり『ムダ・ムラ・ムリ』という並びで用語を使っている。


直感的に『ムダ・ムラ・ムリ』はどこか語感がおかしい。『ムリ・ムダ・ムラ』は良い。少し並びを変えて、『ムリ・ムラ・ムダ』も良い。全く問題ない。どうやら『ムラ・ムリ』に違和感があるようだ。


なぜここに違和感を感じるのだろうと考えた結果、絵本『ぐりとぐら』を思い出した。ああこれだ。二匹のねずみは『ぐり』と『ぐら』の順序
でなければならない。りの次はら。『ムリ』の次は『ムラ』だ。


並び順には意味付けが必要だが、語感のセンスも必要だ。街中でよく語感のセンスの無い広告を見る。交通安全のセンスの無いスローガンにイラっとする。例えば

 運転の マナーが光る 早めのライト
(新潟県三条市 70歳 理容業)

なんで最後7文字やねん!とか。

 ぼくはここ チャイルドシートが 指定席
(千葉県香取市 32歳 会社員)

32歳でチャイルドシート乗ってたらそれは羞恥プレイやろ!とか思う。


話がそれたが語感のセンスである。ぐりときたらぐら。ムリときたらムラである。ビジネスにはセンスが必要だ。ぐりとぐらという日本人の脳にふかく根付いたリズムを無視した『ムラ』と『ムリ』という順序で用語を提唱した人間はそのセンスのなさを悔いたほうがいい。


ビジネス用語にセンスを。

ぐりとぐら 二人そろって 去年から 後期高齢 者になりました。