祖母と写真展

日曜日、祖母と二人で大阪梅田の大丸百貨店で開催されている岩合光昭の写真展に行ってきた。祖母が心斎橋の大丸百貨店で売り子をしていた頃、岩合さんの御兄弟が同じ部署で働いていたらしい。彼が撮った猫の写真が見たいというので、寒風吹きすさぶ梅田に足を運んだ。

最近改装して綺麗になった大丸の15階。広いイベント用スペースをパーテーションで区切り、暗めのライティングで、大小さまざまな写真が飾ってある。『どうぶつ家族』というのが写真展のテーマで、兄弟で遊ぶチンパンジーや母から母乳をもらうトラなど、家族と居ることで少し表情が緩んだ動物の一瞬が、画に収められていた。祖母が見たがってた猫の写真は見当たらなかった。


動物の写真が並ぶ展覧会で、一点、草原地帯の日没を捕らえた写真があった。焼けるように朱に染まった空の下、豊かに枝を伸ばした一本の木が生えている。低い草が一面に広がる中、一本の木は空に向かって枝を伸ばし、葉をつけ、影を作っている。ちゃっちゃと動物の写真を眺めていた祖母は、その写真の前で立ち止まり、じっと画に収められた木を眺めていた。


『ほんまに立派な木やな〜。毎日、こんな景色を見て暮らしていけたら、どんなに幸せやろな〜』


写真の前を離れた後も、祖母は杖で体を支えながら、幾度と無く写真のほうに振り返り、物惜しげに木を眺めていた。


大恐慌の年に生まれ、斉斉哈爾(チチハル)の街で育ち、空襲で全てを失った大阪で暮らしてきた祖母は、今年83歳になった。

斉斉哈爾の襤褸屋の隅で霜を抱き夜明かしたりと祖母は語りき(賽野かわら)