黄色いビラ

朝出勤すると、製作所の門で男性が黄色いビラを配っていた。それを受け取って、歩きもって読んだ。先週発生した労働災害について書かれていた。俺と同年代の工員が、設備点検中に金型に指を挟まれ、左手の中指・薬指・小指を失ったらしい。俺は、ビラを読んだ後、唸ってしまった。


事故が発生したのは、俺が昨年「時間研究」といわれる生産工程で工員が行う諸動作について調査を行った工場で、まさに調査対象となった工員が事故にあった。ビラに被害者の名前は書いていなかったが、あの人だろうかと幾人の顔が浮かんだ。


ビラを読んだ後、事故発生直後の風景を思い浮かべた。血まみれの手を押さえて叫ぶ被害者、駆け寄るライン責任者、ちぎれ落ちた指を捜す工員達。設備はそれでも、いつも通り、同じリズムで、素材を溶かし、金具を削り、成型し、仕上げをする。轟音の中、作業を終えた設備が「It's a Small World」を奏でる。


昔は今に比べて設備の安全基準がゆるく、こういった事故が日常茶飯事に起きていたと聞く。俺の祖母の従兄弟は運送会社を経営しているが、両手の幾本かの指が無かった。『どないして無くしたか、とうの昔のことやし、忘れてしもたわ。』と言っていた。


俺と同年代の被害者は、きっと、部品を組み立てる現場から離れるだろう。可能であれば、生産技術部や品質管理部といった管理系の部署に移動して、活躍してほしい。それだけを、切に願う。