ただ酔う読書

開高健の『耳の物語』を枕元に置いて、ちびちびと読み進めている。開高健が過去に経験した出来事を音を頼りに追想する自伝的小説で、酩酊と覚醒を繰り返す流れるような文体で開高少年が見た風景や感じたことが描写されている。千日前通り、ジャンジャン横丁等自分が良く知った地名が出てくるたびに、物語の情景が半覚醒状態の脳裏に浮かび、物語とも夢とも区別のつかぬまま、本を片手に眠りにつく毎日である。


開高健の本を買おうと思ったのには経緯がある。いつも巡回しているブログで、谷沢永一のことが書いてあった(まだ亡くなる前のことである)。どんな人物であるかとWebを巡ると、開高健と大変仲が良かったとある。さて開高健とはどんな方であるかと、またWebを辿ると、関西人であり、寿屋(現サントリー)宣伝部で働いていたとある。さて、そこで刊行したという『洋酒天国』とはなんぞや…、と調べているうちに、開高健の著作を読んでみようと思い、早速、大丸心斎橋のふたば書房で耳の物語』、船場センタービルの天牛堺書店で『それでも飲まずにいられない』を購入した。


枕元には『耳の物語』を置いてあるが、時と場合によって読む本を分けている。出張の行き帰り・出退勤と出張の行き返りは和田一夫『ものづくりの寓話』、土日の朝はトーマス・マクロウ『シュンペーター伝』、気分が向いたら畑村洋太郎『続直観でわかる数学』。更に朝のお勉強用に原価計算に関する専門書が2冊。ジャグリングをするには両手では足りなくなってきた。


先週の日曜日、神戸サンボーホールの『ひょうご大古本市』に出かけた。目移りする興味に漏斗をあてがい、今日は短歌に関係する本を探そうと心を決める。老若男女(主に老)の波をかきわけ、落語、歴史などおもしろそうな本を横目に棚をめぐり、一際光を放つ本を一冊見つけた。塚本邦雄『国語精粋記』。水色の装丁の本を開いてページを捲り、旧漢字で埋め尽くされた文章にしばし魅入る。本の裏の値札を見ると1,200円。うーん…。悩ましい…。が、抱えている本の消化状況を鑑み、今日買うのを控えておこうと心に決める。


今積んでる本が全部さばけたら、塚本邦雄に面と向かって対峙したい。いつになるやら、わからんけども。

東電脱出 したし余生の 年金は ストップ安で 露と消えにし