3月のライオン

3月のライオンを読んでいる。二ヶ月ほど前からコミックスを買い揃え、最新刊の5巻は発売日からほどなくして購入した。


料理を作り、猫と戯れ、ほんわか暮らす川本家の話よりも、臓腑を握り締めるような緊張感の中で戦う棋士達の話に引き込まれる。4巻で繰り広げられた島田と宗谷の獅子王戦(という竜王戦をモデルにしたタイトル戦)の迫力もすごかった。胃痛で苦しむ病身に鞭打って戦いに挑む島田は、ところどころ宗谷を追い込む局面が訪れるも、遂に1勝もできず、獅子王戦を終える。


勝った棋士よりも負けた棋士の描写が印象的だ。勝負の世界で注目されるのは勝者だが、その影には必ず敗者がいる。頭が茹るほどのくやしさに怒り、自信は打ちひしがれ、行く道に迷い、そして、新たに一歩を踏み出していく敗者達。彼らが苦悩する姿が丁寧に描写されている。


2巻を読んでいた折、主人公桐山が、負けた後に不遜な態度をとった安井に対して発した叫びに、はっとした。


『ふざけんなよ
弱いのが悪いんじゃんか
弱いから負けんだよっっ
勉強しろよ
してねーのわかんだよ』



3月のライオンを読むと、仕事に対するやる気が沸いてくる。ああそうだ、俺はサラリーマンになりたかったんじゃない。定時に仕事を終え、アフター5を満喫し、老後のために年金を積み立てる安泰な生活がほしかったんじゃない。起きてから寝るまで、脳をねじ切るくらい一つのことを考え続ける仕事がしたかった。


残業がなんだ。


漫画に登場する棋士の真似をして、砂糖を大量に設定し、カップコーヒーを購入する夜の10時。棋士のように脳をフル回転させるにはブドウ糖が必要なのだ。寒風吹きすさぶ中、出てきたコーヒーをぐっと一口飲んでみる。


あ、甘過ぎ…。


【今日の短歌】
藍の空 航空障害 灯の赤 色に染まって 命帯びたり