憂鬱な朝
自分の目的地を確認し、そこへ通ずる幾多の線路を思う。全ての線路は細くて頼りない。大きく左や右に道が曲がっていると、それはあらへんやろう、と第六感が口を挟む。
駅から乗り出して線路の行く先を眺めていると、快速列車や特急列車が次々に通過する。その後しばらくして、1車両しかない鈍行列車が駅に乗りつける。
『切符は?』
と車掌に聞かれれば、
『何処まで行くかわからへんので後で買います』
と答える。そのままパンタグラフの折れそうな車両に乗り込む。
車窓から変わり映えが無いオフィス景色を眺める。電話の呼び出し音が響き、キーボードを打鍵する音が鼓膜にへばりつく。窓際族のおっさんが
『よしっ!』
と大声で叫ぶ。
窓から手を出すと、手のひらに激しい風が当たる。緊張で顔がこわばり、目頭が重たくなる。夢でも幻でもない現実の空気が手をたどって体にへばりつき、全身を覆う。倦怠を蒸留してしぼりとった憂鬱が、PCの画面をYahooニュースへと誘導する。
本日の天気晴れ。最高気温18度。電力使用率81%。
霞がかった思考に泥色のコーヒーを流し込み、半ば強制的に脳を覚醒させる。ブラウザを閉じ、代わりにLotus Notesを立ち上げる。同僚からの新規メールが1件。タイトルは
『けいおん連載再開の件』
お前、脳に桜咲いてるんじゃねえの。
白日の 光差し込むトラックの サイドミラーが 不意に閃く